■酒粕がカラダをきれいにする…酒粕の健康・美容効果
・ おいしくなる(アミノ酸や米由来の糖分が豊富。また他の食材を酵素で分解)
酒粕を料理に使うとおいしくなります。それは酒粕が、うま味のもとの宝庫だから。酒粕には米の発酵から作られるアミノ酸やブドウ糖が豊富に含まれて、これがうま味のもとになっています。またお酒の発酵に欠かせず、酒粕1g中に2~6億住んでいるという酵母菌にも、生米に比べてアミノ酸が583倍含まれています。このアミノ酸が、料理に加える他の食材のうま味(植物系に多く含まれるアミノ酸の一種グルタミン酸(主に昆布など)やグアニル酸(主に干し椎茸など)、動物性に多く含まれる核酸の一種イノシン酸(主に鰹節など)と合わさりうま味が増し、よりおいしく感じられます。これを「うま味の相乗効果」といいます。また、この酒粕と他の食材を合わせて置いておくと(漬物、粕漬けなど)酒粕中の酵素がその食材を発酵分解して、さらにうま味が倍増します。例えば酒粕に含まれる酵素、プロテアーゼははたんぱく質をうま味に。アミラーゼはデンプンをブドウ糖に分解します。これにお酒のよい香り(香味成分エステル香など)が加わわり、風味も増し、料理をおいしくしてくれます。
・ 栄養素が増す(各種酵素、ビタミンB類、必須アミノ酸が豊富)
酒粕には栄養がいっぱい。先ほどの酒粕に住んでいる酵母菌には、まだまだ栄養が豊富に含まれています。同じ量の生米に比べて、ビタミンB2(細胞の活性・再生)が26倍、ビタミンB6(アミノ酸の代謝・神経の伝達・エネルギーの吸収)が47倍、アミノ酸が586倍含まれ、体内で十分な量を合成できず栄養分として摂取しなければならない必須アミノ酸も9種類全て含まれています。また良質の植物性たんぱく質、葉酸、ナイアシン、植物繊維、各種ミネラルも豊富に含まれています。次表で簡単に数字で表して見ますと。
酒粕100gあたり
エネルギー 227Cal
たんぱく質…15g(タマゴ約1・5個分)
植物繊維…5g(りんごの約4倍)
ビタミンB1…0.03mg(レモン約15個分)
ビタミンB2…0.26mg(りんご約5個分
ビタミンB6…0.94mg(レモン約8個分)
ナイアシン…2mg(バナナ約3本分)
葉酸…170μg(トマト約1個分)
パントテン酸…0.48mg(トマト約1個分)
アルコール…約8%
科学技術庁編「日本食品標準成分表」より
酒粕はまさに栄養の宝庫!実は粕(かす)じゃぁなかった酒粕の話しでした。
・ 保存性が増す(酵母菌のアルコール。乳酸菌の乳酸などが他の菌を抑制する)
酒粕は密閉保存すれば熟成しながら何年でも持ちます。それ自体が生きた発酵食品なので腐ることがありません。それは酒粕に含まれる微生物がすでに自分たちのテリトリーをしっかり守っているからです。他の雑菌から守ってくれる主な成分は、酵母菌からのアルコール。乳酸菌からの乳酸です。なので酒粕を漬け床にしたり、調味料にしたり、他の食材と合わせておくと俄然、保存性が増します。
・ 消化、吸収、排泄がスムーズになる。(酵素で消化、吸収を助け、便通をよくする)
酒粕は、微生物たちが醸しだした酵素が100種類以上、山のように含まれる酵素の塊。
この酵素が消化、吸収を助けてくれます。酵素とは「ヒトが生きる上で物質の消化・吸収・輸送・代謝・排泄すべての化学反応を起す(触媒となる)たんぱく質分子」です。生きるとは酵素を使うこと。または酵素によって生きている、とも言えます。酵素には3種類あります。
・消化酵素(食物の分解、消化。体で作るが、外から補うことが出来る)
・代謝酵素(細胞の新陳代謝、再生。体で作るが、外から補うことが出来ない)
・食物酵素(食べ物から補う酵素)
そして大切なことが二つ。
・酵素は体内で作ることができる。それを潜在酵素という。しかし一日で作れる量。一生のうちで作れるその量は限りがある。
・消化酵素は食べ物で補えるが、代謝酵素は食べ物で補えない。
酵素は全部使いきってしまうと、生きていけません。いつまでも元気な人は、酵素が豊富な人とも言えます。そして、きれいな肌を作り、髪の毛を作り、老廃物を出して、細胞の若返り、をしてくれるのは代謝酵素。
ということは、消化酵素はできるだけ食べ物から補い、体内の酵素はできるだけ代謝酵素に回してあげたいもの。これが、発酵食やローフードが体に良い。とされる理由でもあります。しかし酵素は熱変性しやすいので、これは酒粕や発酵食品を生で食べた場合の話しです。
排泄の話。
酒粕を食べると、ウンチがするりと気持ちよく出ます。それは酒粕に含まれる成分が、腸内の余分な脂肪や残留する油を吸着して、そのまま便と一緒に出してくれるからです。その成分を「レジスタントプロテイン」と言います。これは元々お酒の原料である米に含まれていますが、排泄の効果を上げてくれるのは酒粕になってこそ。そのわけは米をお酒に醸す過程で麹がレジスタントプロテインをむき出しにして、油を吸着しやすい形に変えてくれるから。さらに米よりも酒粕には凝縮して含まれます。これが結果として悪玉コレステロールを下げ、腸をきれいにするのに一役買ってくれます。
・ 健康になる
今、研究されている酒粕の健康効果を並べてみます。
・ガンの抑制効果(Nk細胞の活性促進物質。ガン予防物質の発見)
・高血圧への抑制効果(ペプチドと言う物質が血圧降下の効果があるとされている)
・肥満予防の効果(デンプン分解を遅くし、インシュリンの上昇を抑える物質を発見)
・脳梗塞の予防効果(血液中の固まりや血栓を溶かす成分の発見)
・骨粗しょう症への予防効果(骨組織を壊すカテプシンーLの働きを抑える物質の発見)
・狭心症、心筋梗塞、動脈硬化への予防効果(血中悪玉コレステロールを下げると期待)
この本は健康本でも医学書でもないので詳しい内容を全てはご説明できませんが、ザッと挙げただけでも、成人病や現代病への多くの予防効果が期待されています。
しかし自分の専門である発酵醸造の観点からだけでも、各前章でお話した成分と効果を原因としてその結果、健康の一助となりえます。
つまり、酒粕はビタミンなどの各種栄養素が豊富で、食とともに酵素を補い消化・吸収を助け新陳代謝が活発になり、排泄を即し、余分な油を流して、腸内をきれいにしてくれる。その結果、健康になる。と言えます。
「流水腐らず。止水は死水。」
と言いますが、健康とは体の流れを滞りなく、スムーズに流していくこと。病気とはエネルギーの滞りと見ることもできます。酒粕は、あらゆる角度から体の流れをスムーズにして、古きを流し、新しきを取り入れ、若々しく活き活きとした心と体を作るのに一役買ってくれるでしょう
・ 美しくなる(便通が良くなり、腸内がきれいになると、肌もきれいに心も軽くなる)
ここまでの話しの結果、酒粕を食べると腸がきれいになる。ということがわかりました。そして腸がきれいになるとお肌もきれいになります。腸と肌は相関関係にあり、密接につながっています。よくよく考えてみると、腸は肌の延長なのです。腸内というと体の内側と思いがちですが、実は体の外側とも言えるのです。なぜならヒトが口を上に向けてあんぐり開いて立つと、人とは唯の筒状の物体なのだと気づくからです。口からものが入ってお尻から出て行く。ただそれだけ。もっとシンプルに考えると「ちくわ」や「土管」のようなもの。皮膚は口から内側に折り返して、そのまま食道、胃、腸、肛門とつながり、またお尻の皮膚につながっていきます。つまり面としてつながっています。腸は内側の皮膚とも言えます。この腸の状態は、良くも悪くも全て外側の皮膚にも現れます。お肌の美容は、外からいくら高級な素晴らしい乳液や美肌クリームを塗ろうと、一時的なもので、根本からは変わりません。お肌の美しさは、内側からきれいにするのが簡単でシンプルな、かつ本質的な道のよう思います。
健康と美しさは表裏一体の同じもの。美しさとは、外見をどれだけ装ったか、着飾ったかではなく、内面の美しさが輝き外に魅力として溢れ出るもの。だと思います。内面の美しさとは、その人にとっての最も自然な消化、吸収、排泄から作り出される細胞の生命力。命の輝き。そこからの心と魂の喜びの表現だと思います。
・ 発酵のスターターとして使える。(元気な清酒酵母や植物性乳酸菌が生きている)
酒粕のなかにはお酒を醸す段階で活躍した様々な微生物が生きています。この微生物たちの働きこそが「百薬の長」たるお酒を作り、また酒粕の数々の、おいしさ。栄養。健康効果。美容効果を醸しだしています。まさにこの目に見えない微生物たちこそ、酒粕の本質とも言えます。酒粕はお米を棲家にした微生物達の小さな宇宙なのです。
そして新鮮な酒粕ほど、この微生物達も元気です。なので微生物達に、エサと環境を与えて、新しい活躍の場を与えてあげる事もできます。つまりは小麦粉と混ぜ、パンを膨らませたり、糠床や漬ものに使ったり、100%フルーツジュースに入れて炭酸ジュースにしたり、そこからさらに発酵を進めて、密かに夜の楽しみを醸してみたり。
と、深くて広い小宇宙。発酵の世界を冒険する足がかりにすることができます。さぁ!始めましょう!キッチンから始まる発酵の世界へようこそ。この世界に一歩足を踏み入れたならば、その魅力と楽しさに、もう抜け出せなくなります。そして気づけば、あなたの人生も楽しいワクワクに溢れた発酵世界になっていることでしょう。